広島修道大学准教授 木原一郎

建築学生であった私は卒業設計に向けてその頃そのようなことを考えていた。また大学院の頃は指導教官の影響で Ecopeace というコンセプトを掲げていた時期もあった。
そして現在、その頃と同じようにまた広島の未来像を考えている。
2020 年3月に「#カミハチキテル – Urban Transit bay -」という公共空間活用社会実験を行った。実験地が相生通りの東急ハンズ前付近であったため、紙屋町と八丁堀の読みの頭を取ってカミハチと呼ぶことにした。
これまで長らくライバル関係にあった紙屋町と八丁堀であるが、近年では今後の都心空間はどうあるべきかを考える勉強会を共同で開催されていた。
その一環で 2017 年には都市・地域デザインカンファレンス中国、2018 年には全国エリアマネジメントシンポジウムを広島で開催し、名古屋や福岡などエリアマネジメントの先進事例を視察に行かれていた。
また時を同じくして、2018 年には広島中心部が広島駅周辺に続き、都市再生緊急整備地域に指定された。今後の都市再生に対応するためには、都心部のビジョンの検討が必要ではないかと有識者からアドバイスをいただき、2019 年3月から紙屋町・八丁堀エリアマネジメント実践勉強会を立ち上げ、紙屋町・八丁堀がさらに一体となって、都心部のビジョンについて検討を始めた。
その過程で中心となった考えが、これまでの車中心の空間から人中心の空間へシフトしていく事であった。夏までに一度途中経過をまとめた時に、このビジョンの検証のために社会実験を行うことを決めた。
実行委員会を立ち上げ準備をし、公道の一部やコインパーキングを人々が滞留することのできる空間に変えた公共空間活用社会実験「#カミハチキテル – Urban Transit bay -」を実施した。

実施期間中はみるみる社会情勢が悪化し、ついには外出自粛要請まで出てしまったため、実験により得たデータは概ね良好であり、いただいた感想もほとんどが良いものであったものの、対外的には何を言っても特殊な状況であったことが付いて回るようになってしまった。
この社会実験は何を残せるのだろうかと悩んだ時期もあったが、その悩みもよそに関係者の皆さんはこの社会実験から人中心の空間にシフトしていく効果や価値、そして皆さんがこれまで考えてきたビジョンに関して実感を持って理解してくださり、都心再生に向けさらにビジョンをブラッシュアップしていくことを決意されていた。
最も大きな成果はこの社会実験に関わってくださった皆さんの中にあったようだ。
その後、実践勉強会をベースとして立ち上げた団体が官民連携まちなか再生推進事業に採択され、「エリアプラットフォームの構築」や「未来ビジョン等の策定」に向けた多様な方々との協働を通して、現在私はまた広島の未来像を考えている。

「平和」は「戦争」の対義語であることは間違いない。
また今後もそれが変わることはない。
しかし都市やまちづくりにおける「平和」の対義語は何になるのであろうか。
コロナ禍の社会情勢を戦時中に例える報道や論説を目にしたことがある。
経済を止めるな、感染防止が優先、いろいろな立場からの意見がある。そのいずれであっても解決策を講じて成果が出た場合、まちや地域は「平和」を手に入れることができるのだろう。
コロナ対策で屋外の憩いの空間を作り、そこで美味しいものを親しい人と食べる。これもやはり「平和」を感じるのではないだろうか。
おそらく新しい「平和」を手に入れるための正解はない。そのため、広島は新しい「平和」を生み出すための実験都市となるべきではないかと考える。小さな実験(アクション)でも良いと思う。その実験を通して、効果的な方針が見つかったときに、小さな新しい「平和」が生まれる。
その小さな「平和」が集合し、ビックビジョンまたは国際平和都市を形成していくのではないかと思う。

学生時代に広島は実験都市になるべきだとおっしゃっていたパネリストの方が登壇された講演会に参加した記憶がある。しかし残念ながらその講演会のタイトルや登壇者の方のお名前を失念してしまっている上に、どういう都市を実験都市と表現されていたのかすら覚えていない。
おそらく他が霞んでしまうくらいの強い覚悟の入ったキーワードだったのだろう。今回の社会実験も覚悟を決めて臨んだ。
しっかり覚悟を持った活動は後世に何かを残すに違いない。

まちづくりひろしま第51号 (令和3年1月15日)