安芸高田市地域おこし協力隊 福岡奈織


昨年、結婚を機にそれまで訪れたことのなかった安芸高田市へ引越しをしました。
よく、「どちらかが安芸高田市の生まれですか?」と聞かれるのですが、そういった縁はなく、ほとんど直感でここへ。

決め手は家でした。
いろんな市町の数十件の空き家が候補としてありましたが、
結局、知り合いに紹介された今の家が気に入り、住んでいます。

築110年ほど。
「集落で一番大きい」と言われる桜の木と、茶室のような離れ、
18畳の和室や馬小屋、キウイ、サクランボ、梅、柿、栗・・・など折々の果実。
縁側からは神ノ倉山を眺めることができ、水を張った田んぼに新緑の山が映ります。玄関まで来てくれるたくさんの蛍、モノクロの絶景となる雪の日も最高の眺めです。

農園の名前は「イニアビ農園」と言います。
イニアビとはネイティブアメリカンの言葉で、
「すべての生命が頼る太陽」という意味。
太陽から始まるあらゆる命の神秘を勉強し、観察しながら、農薬と肥料を使わない自然栽培で野菜を育てています。
夫が群馬で教わった干し芋が得意で、ほかにもいろいろな種類の野菜を栽培します。農業体験や、民泊、スタディーツアーを受け入れたりもしています。

思えばもともと、私はバリバリと働いて出世してキャリアを築くんだと鼻息の荒いタイプの学生でした。そのために何度東京へ繰り出したことか。
しかし、フランス領ポリネシアの元核実験労働者に会いたくてタヒチ島に一か月滞在したことが私の価値観を大きく変えました。
朝、日の出と共に動き出す動物と人。
庭のアボカドとパパイヤがそのまま朝食になり、昼すぎに漁師から魚を買い、沖まで泳いで綺麗な海水をとってきて調理する。
そんな滞在先のおじさんの、大地から頂き、大地へお返しする暮らしに身体の芯が共鳴しました。
帰国して空港でお金をおろすために入ったコンビニで、並んでいる食べものが、すべておもちゃに見えた時。
そしてその頃居候していた東京・下北沢のアパートの無機質なにおいに耐えられなくなった時。
大地と共にある暮らしに向けて舵を切りました。

現在は、自宅を拠点とした農園づくりの傍ら、安芸高田市の地域おこし協力隊として「多文化共生推進事業」に携わっています。
市は増え続ける技能実習生など、海外からの人たちにも住みやすい地域づくりを掲げています。彼らと同じく外から地域に来た身として、この里山の恩恵に感謝しつつ、私がタヒチでお世話になったぶんも、この地域で一緒に暮らす外国から来た皆さんに恩を送りたい。

里山から「世界」とつながる拠点をつくることが今の私の目標です。

まちづくりひろしま第54号 (令和3年7月15日)